ウイングアークテクノロジーズなどを傘下に持つ「1stホールディングス」の一員であり、先進的技術の研究開発を担当するのが株式会社フォー・クルーだ。今回は、その設立者である田中潤氏と、社内きってのアイデアマンである島澤甲氏に話を聞いた。
(インタビュー 袖山 亜希子 構成/撮影 増田 千穂 )

研究開発を主とした企業、と聞くと技術だけを突き詰める人々が頭に浮かぶ。しかし実際は、田中氏が「新しいものを生み出して世界を狙いたい」と考えて設立した企業であり、しっかりと戦える製品を生み出すのが使命だ。よりよいソフトウェアを送り出すための、長期間開発という位置づけで行われる研究は、常に高い目線で行われている。
- 袖山
- お2人は、なぜエンジニアになり、最先端の技術を研究しているのでしょうか。
- 田中
- 私の場合は細かく話すと長いんですが、簡単にいえばファミコン時代に出会ってしまった「クソゲー」が許せなかったからですね。ゲームソフトって子供が買うには高いものですよね。お年玉とかを使い思い切ってゲームを買うわけですよ。ところが、それがものすごくつまらなかったり、遊びづらかったりする。そんな「クソゲー」を買ってしまうともう大変ですよね。俺の半年分の小づかいだぞ!みたいな。これはいけない、クソゲーは撲滅しなければ、と思ったのがスタートじゃないかな。
- 袖山
- 小学生の頃ですよね? 確かにおもしろくないゲームを買ってしまったショックはあると思いますが、そこまで考えるとはすごいですね。
- 田中
- なんでダメなゲームが存在するのかと考えてみると、作ってる人がゲームをわかっていないんですよ。ユーザーのことを考えず、こういうゲームをこれだけの納期で作ろうというスケジュールだけをもとに作ってる。予算や納期の問題はあるんでしょうが、まあこんなもんでいいだろう、と世の中に送り出してしまっているわけです。本当なら、どれも世の中にあるのはみんないいゲームだから、あとは好みで選ぼう、と思える状態じゃないといけない。
- 島澤
- 私も同じような気持ちはいろんなシーンで感じていました。前職ではダメなソフトウェアを高い金を取って売っている状態が許せなくて、自分でパッケージソフトウェアの開発をしたくらいです。そこでは自分で開発から営業、サポートまでやらなければならない状態だったので、ちょっと手が回らないなと思って。いい会社がないかなと思って出会ったのがフォー・クルーなんです。
- 袖山
- ダメソフト撲滅、が合い言葉なんですね。他の社員の皆さんも、同じような体験をしているのでしょうか。
- 田中
- どうでしょう。でもウチは、自分で突き詰めて考えられる人しかいないですよ。言われたことだけやるのではなくて、お客様からの提案に対して「こっちの方がもっといいと思います」くらい言えるようじゃないとダメ。開発も、お客様の要求通りに作るのではなくて、こちらからさらにいい提案をして相手の隠れた要望を引き出し、お客様にとって本当に使えるものを作ることにこだわります。「オーナーメード」ということですね。
さっきの「クソゲー撲滅」じゃないですが、私の究極の目標の一つは、地球上のだれもが使いやすいソフトウェアを作ることなんです。その過程として、まずは「すべての企業が使いやすいソフト」を作りたいんですね。「オーナーメイド志向」もその流れの一つなんです。

株式会社フォー・クルー
代表取締役社長 CTO 田中潤氏

株式会社フォー・クルー
ソフトウェア・プランナー 島澤甲氏
フォー・クルーの技術がつぎ込まれた製品として「MotionBoard」がある。業務を行う上で企業に蓄積されている既存データを活用して、様々な視点からの分析を行うソフトウェアだが、一般的なBIツール等と比べると段違いの表現力を持ったグラフ表示や、大量データの高速処理を実現したのが特徴。その立役者が、島澤氏だ。
- 袖山
- さきほど見せていただいた「MotionBoard」はすごかったですね。グラフなども、とても斬新な表示でわかりやすいですし、新しいデータを取得しての描画なども速くて。
- 田中
- 実はいろんな新技術が盛り込んであるんですよ。特許も取っています。高速な描画は「この画面が表示されるのに何秒以上かかってるようじゃダメ」とか「グラフの点は1万個くらい表示したい」とか理想を言って「じゃあ、明日までにやっておいて」と言う感じで追求して行きました。
- 袖山
- 明日まで、というのは非常に厳しいと思いますが、いつもそういう指示の仕方なんですか?
- 島澤
- いつもですね。私が入社した時も、これ明日までにこうしておいて、と言われましたから。地道に取り組めば何でも実現できるというわけではありませんし、ひらめきが必要なタイプのことは1日である程度できなければ達成できないんです。
社長がいつも言うのは「ムリと言うな」ということですね。あれは社是になるのかな? - 田中
- 社是かな。出来ないとはけっして言わない、というのは私の座右の銘でもありますね。簡単に出来ないなんて言ってはいけないと思うんです。考えて、つきつめていかないと。
それに、発想は自由であってほしいとも思いますね。たとえば東京から北海道に行くには何を使うと一番速いと思いますか?

島澤氏の通常開発スタイル。これぞエコプラミングを実施する!?

田中氏のオフィスではアイデアメモがインテリアになっている
- 田中
- 最初は飛行機とか新幹線とか言うわけですよ。少し自由になってくると、チャーター便がいいとか、高速飛行できる飛行機に着陸せずどうにかピックアップしてもらおうとか言い始める。でも私は、どこでもドアが一番速いじゃないか、と思うわけです。
- 袖山
- ドラえもんの道具ですよね? 確かにドアを開けるだけですからこれ以上速いものはありませんが......。
- 田中
- そこで、出来ないとか言ってはダメなんですよ。速いのはどこでもドアなんだったら、どうしたらそれを実現できるのかなと考えるわけです。どこでもドアができるまでには相当時間がかかるだろうけれど、その手前にはさまざまな新技術があります。それらを製品化して当面の収入を得ながら、最終目標に向かって走るわけです。
- 袖山
- なるほど。大きな目標を掲げて取り組むのが田中さんのスタイルなんですね。確かにそういう取り組み方をすればすごいものができそうです。島澤さんは開発にあたって、普段から気にかけていることは何でしょうか。
- 島澤
- 私は、プログラミングはエコでなければならないと考えています。PCの性能の進歩って本当にすごくて、昔と比較するとCPUは15万倍くらい速くなっているんですよ。だけど、その恩恵はエンドユーザーが受けられていないですよね?
- 袖山
- 難しいことはできるようになったけれど、そんなにめざましい速度の進歩は感じませんね。
- 島澤
- 性能の進歩に甘えてるんですよ。もっとリソースを使わない、エコなプログラミングを目指すべきです。勘違いしてはいけないのは、エンジニアの労力をケチってエコにしてはいけないということ。どこかが用意してくれたモジュールを組み合わせて作れば楽ですけど、誰が作っても同じだし、基本の部分で速度や処理性能に対する工夫ができないでしょう? そこはエンジニアが苦労しないといけません。
開発を仕事ととらえず、趣味で取り組むくらいの情熱がなければダメだという2人は、業務以外でも個人的にいろいろな開発に取り組んでいる。そうした成果やアイデアを発表する場として用意されているのが、アイデアコンテストだ。1stホールディングスグループとしての取り組みに加えて、フォー・クルーとしても社内で実施している。
- 袖山
- お2人が考える、エンジニアに必要なものとは何でしょうか。
- 田中
- 仕事以外で好きになることですね。別に会社以外でも働けと言っているわけではなくて、趣味と同じくらいのめり込めないとダメという意味です。つきつめていることが大切。研究ってそういうものですよね。
- 島澤
- 日本と海外の違いってそこにあると思っています。日本のエンジニアは受け身な人が多くて、技術に対して興味がないんですよね。仕事するためのツールという感覚。好きでつきつめていかないと世界では戦えないですよ。
- 袖山
- なるほど。そんなお2人が今気に入っている技術ってありますか? おすすめの最新技術とか、昔から使っているお気に入りとか。
- 田中
- 思いつかないなあ......。正直に言って、すべてに不満がありますよ。言語とかは時々で組み合わせて使うけれど、どれが好きってことはないですね。不満だから、自分で作る方向に行ってしまう。
- 島澤
- 常に満たされないですよね。道具としては何でも使いますけど、やっぱり私も作る方を考えます。

グループ内アイデアコンテスト告知ポスター。
前回優勝者である島澤氏のプレゼン風景が
使われている
- 袖山
- 作る側の人なわけですね。では今後作ってみたいもの、やってみたいことというと何でしょうか。とんでもないものが出てきそうですが。
- 田中
- 宇宙ステーションを作りたいですね。自社ビルならぬ、自社宇宙ステーション。
- 袖山
- 宇宙に飛び出しますか! ロケットで出勤する感じですか?
- 田中
- ロケットで宇宙に行くっていう発想がもう古いでしょう?飛ばすたびにコストがかかって仕方ないし。どうやったら簡単に移動できるかな、って考えるわけですよ。他にも生活の中の不便さをみんな解決したいですね。
- 島澤
- 今社内でアツイのはエネルギーネタです。何か効率のいいエネルギーはないかな、とみんなで話しています。人間が普通に生きているだけでエネルギーが生み出せるといいですよね。発電方法とかではなく、もっと効率のいい新エネルギーは何だろうというレベルで話しています。
- 田中
- この前おもしろい企画出してたじゃない。ヌルデバイス。お店とかに端末が設置してあって、デバイスを持ち歩かなくてもどこでも情報端末が利用できるというアイデアだったけれど、私はそれを聞いて空中にディスプレイみたいなものが出てきて本当にどこでも使える世界になったらいいなと思いました。
- 島澤
- 空間投影は趣味で研究したことありますよ。
- 田中
- 実は僕もある。地球に圏外なし、みたいな感じになるといいよね。
- 袖山
- 実現したらぜひ使わせていただきたいですね。楽しみにしています。

四角い机の少ない個性的なオフィスデザインは
田中氏自身の手によるもの

エントランスの床には会社のロゴが。
落ち着いた雰囲気の中にもセンスが光る。
●プロフィール
田中 潤(たなか じゅん)
- キャリア:
- ベンチャー企業でSI、ASP、EC事業の展開→大手子会社化で古巣に見切りをつけてウイングアークテクノロジーズへ→ミッションクリアをした次の一手でフォー・クルーを起業→1stホールディングスCTOにも就任
- お気に入り技術:
- なし。すべてに不満!
- 座右の銘:
- 出来ないとはけっして言わない
- 自分を動物にたとえると?
- AIBO
●プロフィール
島澤 甲(しまざわ こう)
- キャリア:
- Slerに入社直後から新人なのに火消し担当に→製造業向け開発でノウハウをためる→ダメソフトウェアを許せずパッケージを手作り→リーマンショックで担当者減。1人開発、1人営業、1人サポートに限界を感じて転職→フォー・クルーに出会う
- お気に入り技術:
- なし。常に満たされない
- 座右の銘:
- エコプログラミング
- 自分を動物にたとえると?
- マグロ(家では冷凍マグロ)
●会社プロフィール
株式会社フォー・クルー
ウイングアークテクノロジーズの開発子会社として2008年に独立。現在は1stホールディングスの研究開発子会社。先進技術の研究開発を行い、その結果を市場に送り出している。社名は知性、創造性、先進性、協調性という4つの鍵を使って新しいソフトウェアを生み出すことからつけられている。






