WebAssemblyの基礎から実践まで、フロントエンド中級者向けに徹底解説します。JavaScriptとの連携や具体的な実装例、ユースケースにも触れ、導入のメリット・デメリットをまとめます。高性能Webアプリケーション開発に携わる方は最後までご覧ください。

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WebAssemblyとは?
WebAssemblyの3つの特徴を解説します。
WebAssemblyの基本概要と仕組み
WebAssemblyは、ウェブブラウザ上で実行されるバイナリーフォーマットの一種です。略称「Wasm」としても知られるこの技術は、Webアプリケーションの性能を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。
C++やRustなどの言語で書かれたコードをコンパイルし、ブラウザ上で直接実行可能なバイナリ形式に変換します。バイナリ形式は非常にコンパクトであり、機械語に近い構造を持つため高速な動作が可能です。
WebAssemblyは単なるプログラミング言語ではなく、プログラミング言語と実行環境の間に位置する中間層として機能します。開発者は好みの言語でコードを書き、WebAssemblyにコンパイルすれば、ブラウザ上で高速に動作するアプリケーションを作成できるのです。
開発背景と注目される理由
WebAssemblyが開発された主な背景には、ウェブアプリケーションの複雑化と高度化があります。従来のJavaScriptだけでは、高度な処理を要するアプリケーションの実装に限界があったのです。この課題を解決するために、GoogleやMozilla、Microsoft、Appleなど主要なブラウザベンダーが協力して開発を進めたのがWebAssemblyです。
WebAssemblyが注目を集める理由は、高速性と汎用性にあります。例えば、画像処理ライブラリをWebAssemblyで実装すれば、ブラウザ上での画像編集ツールの性能を大幅に向上させられます。WebAssemblyを活用すれば、既存のデスクトップアプリケーションをウェブにスムーズに移植可能です。
対応ブラウザとプログラミング言語
WebAssemblyは主要なウェブブラウザで広くサポートされています。以下のブラウザでWebAssemblyを利用できます。
- Google Chrome
- Mozilla Firefox
- Apple Safari
- Microsoft Edge
- Opera
Android版ChromeやiOS版Safari、Firefox for Androidといったモバイルブラウザでも利用可能です。
WebAssemblyにコンパイル可能なプログラミング言語も多岐にわたります。主な言語は以下のとおりです。
- C/C++
- Rust
- Go
- AssemblyScript(TypeScriptの一種)
- Kotlin
- C#/.NET
- Java
- Python(実験的段階)
多様な言語サポートによってWebAssemblyは広がりを見せており、ウェブ開発の可能性を大きく広げています。

WebAssemblyで実現するパフォーマンス改善
WebAssemblyで実現するパフォーマンス改善について、3つの視点から見ていきましょう。
JavaScriptの限界を克服する技術
WebAssemblyはJavaScriptの処理速度の壁を打ち破る技術として注目を集めています。
JavaScriptは実行時に型チェックや最適化を行う必要があり、複雑な計算や大量のデータ処理には不向きです。バイナリ形式であるWebAssemblyは、事前に最適化されたコードが生成されるためJavaScriptを上回る速度で処理が行われます。
既存の高性能なライブラリやアルゴリズムをWeb上で再利用できるのもWebAssemblyの強みです。C++やRustなどの言語で書かれたコードを直接ブラウザで実行できるため、従来のJavaScriptでは実現困難だった高度な処理や、大規模なアプリケーションのWeb移植が可能になったのです。
処理速度向上の仕組みと効果
WebAssemblyが高速な処理を実現できる仕組みは、設計思想と実行方法が鍵となっています。
WebAssemblyのバイナリ形式は、ブラウザのJavaScript実行エンジンで直接解釈・実行できるよう最適化されているため起動が高速化されます。またWebAssemblyは低レベルの命令セットを持つため、CPUの機能を直接利用可能です。64ビット整数演算や、SIMD(Single Instruction Multiple Data)命令を活用した並列処理も実行できます。
WebAssemblyの採用により、デスクトップアプリケーションに匹敵する応答性や機能性を、Webアプリケーションでも実現できるようになりました。
高負荷処理のユースケース(ゲーム・画像処理など)
WebAssemblyは、ゲーム開発や画像・動画処理といった高負荷処理を要する分野で活躍しています。
ゲーム開発では、UnityやUnreal Engineなどの主要ゲームエンジンがWebAssemblyをサポートしています。複雑な3Dグラフィックスや物理演算を含むゲームが、プラグインなしでブラウザ上で動作できるようになりました。
画像処理の分野では、Photoshop WebがWebAssemblyを採用し、ブラウザ上で高度な画像編集機能を提供しています。Amazon Prime Videoは動画再生エンジンにWebAssemblyを採用し、フレームレートの向上とメモリ消費量の削減を達成しました。
WebAssemblyは処理速度の向上だけでなく、Webプラットフォームの可能性を広げています。
WebAssemblyとJavaScriptの連携方法
ここからはWebAssemblyとJavaScriptの連携方法について見ていきます。
役割分担と連携の基本構造
WebAssemblyとJavaScriptの連携は強みを活用した役割分担が鍵です。WebAssemblyは高速な計算処理や複雑なアルゴリズムの実行に適しており、JavaScriptはDOM操作やイベント処理、ユーザーインターフェースの制御に長けています。
連携の基本構造は以下のようになります。
- JavaScriptがWebAssemblyモジュールを読み込み初期化
- JavaScriptによるWebAssembly関数の呼び出し
- WebAssemblyから計算結果をJavaScriptに返答
- JavaScriptは結果を用いてDOMの更新といった処理を実行
上記の連携により、パフォーマンスとユーザビリティが両立できます。

具体的なコード例と実装手法
WebAssemblyとJavaScriptの連携を実現する具体的なコード例を見てみましょう。以下は、WebAssemblyで実装された単純な加算関数をJavaScriptから呼びだす例です。
// WebAssemblyモジュールの読み込みと初期化WebAssembly.instantiateStreaming(fetch(‘math.wasm’)) .then(result => { const exports = result.instance.exports; const add = exports.add; // WebAssembly関数の呼び出し console.log(add(5, 3)); // 出力: 8 }); |
この例では、math.wasmというWebAssemblyモジュールを読み込み、そのモジュールがエクスポートしているadd関数を使用しています。
WebAssembly側のコード(C++で記述)は以下のとおりです。
extern “C” { int add(int a, int b) { return a + b; }} |
実装手順は以下のとおりです。
- WebAssemblyモジュールを作成し関数をエクスポート
- モジュールをコンパイルしてWASMファイルを生成
- JavaScriptからWASMファイルを読み込み初期化
- JavaScriptから呼び出し
この流れでWebAssemblyで実装したモジュールを、JavaScriptから簡単に利用できます。
DOM操作やイベント処理のベストプラクティス
WebAssemblyを活用する際のDOM操作やイベント処理には、いくつかの注意点とベストプラクティスがあります。
WebAssemblyは直接DOM操作やイベントリスニングを行うことができません。必ずJavaScriptを介して行う必要があるため、以下のようなアプローチが求められます。
- JavaScriptでイベントリスナーを設定しWebAssembly関数を呼びだす
- WebAssemblyは更新に必要なデータをJavaScriptに返し、JavaScriptがDOM操作を行う
また、WebAssemblyモジュールの初期化は非同期で行われるため、DOMの操作やイベントの設定は必ずモジュールの初期化完了後に行うようにしましょう。
WebAssemblyの実践例とユースケース
ここではWebAssemblyの実践例とユースケースを紹介します。
Webデザインツール「Figma」での活用
WebデザインツールのFigmaは、WebAssemblyの可能性を引き出したWebアプリケーションです。Figmaの特徴である複数ユーザーによる同時編集機能は、裏側でWebAssemblyが重要な役割を担っています。
Figmaの核となる部分はC++で書かれており、WebAssemblyにコンパイルしてデスクトップアプリケーション並の性能をブラウザ上で実現しています。WebAssemblyへの移行後、ロード時間が3倍以上に改善されただけでなく、ダウンロードサイズも大幅に縮小されました。結果的に、ユーザーは複雑なデザインファイルでも、スムーズかつ高速に操作できます。
Google Earthでのブラウザ間パフォーマンス改善
従来のGoogle Earthはデスクトップにインストールするアプリケーションでした。Chromeブラウザ専用のWeb版も登場したものの、Googleのネイティブクライアント(NaCl)技術を使用していたため、他のブラウザでは利用できませんでした。
2019年6月にベータ版としてリリースされたWeb版Google Earthは、WebAssemblyの力を借りて、ブラウザ間の性能差を大幅に縮小しました。ユーザーは使用するブラウザに関係なく、スムーズな3D地球儀操作を楽しめるようになったのです。
ゲームエンジン「Unity」のブラウザ対応事例
UnityはWebAssemblyの採用により、ブラウザベースのゲーム開発と配信に新たな可能性を示しました。
UnityがWebAssemblyを採用した主な理由は、クロスプラットフォーム対応の強化です。WebAssemblyによりUnityで開発されたゲームやアプリケーションを、プラグインやインストールなしでさまざまなブラウザで直接実行できるようになりました。
WebAssemblyへの移行の効果は大きく、ブラウザ上でのゲームやアプリケーションの動作の安定、パフォーマンスの向上をもたらしました。3Dグラフィックスや複雑な物理演算を含むゲームでは、WebAssemblyが威力を発揮しています。
プラグインなしで高品質なゲームをブラウザで楽しめる新たな時代の幕開けとなりました。
WebAssemblyのメリットとデメリット
WebAssemblyのメリットとデメリットについて理解しておきましょう。
【メリット1】パフォーマンス向上
WebAssemblyの最大のメリットは優れたパフォーマンスです。バイナリ形式で低レベルの命令セットに近いため、JavaScriptと比較して圧倒的に高速で動作します。WebAssemblyはJavaScriptの5倍以上の処理速度を実現した事例も報告されています。
複雑な3Dグラフィックス処理やビデオ編集、物理シミュレーションなど、従来のWebアプリケーションでは困難だった高負荷な処理を実現しました。
WebAssemblyモジュールは事前にコンパイルされているため、JavaScriptのような実行時の解析や最適化が不要です。アプリケーションの起動時間が大幅に短縮され、ユーザー体験の向上にも役立ちます。
【メリット2】複数言語対応の柔軟性
多様なプログラミング言語からコンパイルできる点もWebAssemblyのメリットです。C、C++、Rust、Go、AssemblyScript(TypeScriptの一種)、Kotlin、C#/.NET、Java、Pythonなど、幅広い言語をサポートしています。開発者は自身の得意な言語や、プロジェクトに最適な言語を選択してWebアプリケーションを開発できます。
既存のデスクトップアプリケーションやモバイルアプリケーションのWebへの移植を容易にしたり、既存のスキルセットを活用した開発ができたりといった点もメリットです。学習コストを抑えつつ、効率的なWeb開発を実現可能です。
【メリット3】高いセキュリティ
設計段階からセキュリティを重視しているWebAssemblyは、強固なセキュリティモデルを採用しています。WebAssemblyモジュールは、サンドボックス環境内で実行されるため、ホストシステムやユーザーのデータに対する直接的なアクセスが制限されるのです。
また、WebAssemblyは「Deny-by-Default」セキュリティモデルを採用しているため、モジュールは、明示的な許可なしにネットワークやファイルシステムなどの外部リソースにアクセスできません。
さらに、WebAssemblyモジュールの暗号署名を標準化する取り組みも進められているため、サプライチェーン攻撃などのリスク軽減が期待されています。
【デメリット1】DOM操作の制約
直接的なDOM操作ができない点は、WebAssemblyのデメリットのひとつです。WebAssemblyはHTMLの要素を直接操作するように設計されていないため、DOMへのアクセスや操作にはJavaScriptを介さなければなりません。WebAssemblyが主に計算処理のパフォーマンス向上を目的として設計されているからです。
WebアプリケーションのUI操作やイベント処理には、WebAssemblyとJavaScriptを組み合わせる必要があります。WebAssemblyには複雑な計算や処理を任せて、結果をJavaScriptに渡してDOMを更新するという流れになります。開発の複雑性が増すため、特に動的なUIを多用するアプリケーションでは注意が必要です。
【デメリット2】開発環境や標準化の課題
WebAssemblyは比較的新しい技術であるため、開発環境や標準化に課題があります。十分なツールやライブラリが整備されておらず、特定のタスクを実行するために必要なリソースの検索が困難な場合もあります。
また、WebAssemblyのデバッグ作業は、JavaScriptと比較して複雑になりがちです。バイナリ形式であるため直接的なデバッグが困難で、エラーメッセージが分かりにくい場合もあります。継続的に進化するWebAssemblyの仕様を追いかけるのにも時間を要します。
開発者は常に最新の仕様や実装状況を把握する必要があり、長期的なプロジェクト管理において課題となる場合もあるでしょう。
【デメリット3】実装に必要な学習コスト
WebAssemblyの導入には一定の学習コストが必要です。JavaScriptのみでWeb開発を行ってきた開発者にとっては、新たな技術への理解が求められます。WebAssemblyで効果的に開発を行うためには、低レベル言語(C、C++、Rustなど)の知識が必要となる場合が多く、これらの言語に馴染みのない開発者にとっては大きな障壁となるでしょう。
WebAssemblyとJavaScriptの連携方法やメモリ管理、パフォーマンス最適化技術といったWebAssembly特有の概念や技術も習得する必要があります。適切なユースケースの選定や、JavaScriptとの適切な役割分担の理解も重要です。
WebAssemblyを導入する際の注意点
WebAssemblyを導入する際に注意すべき3点を解説します。
導入に適したプロジェクトの見極め方
WebAssemblyの導入を検討する際は、プロジェクトの特性を慎重に評価しなければなりません。高速な処理が求められる場面、特に計算集約型のタスクを含むプロジェクトがWebAssemblyの恩恵を受けやすいでしょう。3Dグラフィックス処理や画像・動画編集、複雑な数値計算、暗号化処理などが代表例です。
ゲーム開発やCADソフトウェア、科学シミュレーションなどの分野では、JavaScriptの処理速度では不十分な場合が多く、WebAssemblyによる高速化が大きな効果を発揮します。既存のC++やRustで書かれたデスクトップアプリケーションをWeb移植する場合もWebAssemblyが有効です。
ただし、規模が小さい場合は導入コストが上回る場合もあるため注意しましょう。
他技術との比較と使い分けポイント
WebAssemblyと他の技術、特にJavaScriptとの比較は重要です。JavaScriptは汎用性が高く、DOM操作やイベント処理に優れているものの、計算集約型のタスクでは性能面で劣ります。WebAssemblyは高速な実行が可能である一方で、DOM操作には適していません。使い分けのポイントは、アプリケーションの核となる処理部分をWebAssemblyで実装し、UIやイベント処理はJavaScriptで行うハイブリッドアプローチです。
他の技術との比較では、WebGLやWebGPUなどのグラフィックス処理技術との組み合わせも考慮しましょう。WebAssemblyと併用すれば、より高度な3D表現や並列処理も可能になります。
実装前に確認すべき環境要件
WebAssemblyを導入する前に重要な環境要件を確認しましょう。
対象ユーザーのブラウザ環境がWebAssemblyに対応していなければなりません。主要なブラウザはWebAssemblyをサポートしているものの、古いバージョンや一部のモバイルブラウザでは対応していない場合があります。
開発環境に関しては、使用する言語(C++、Rust、Goなど)のコンパイラやツールチェーンが最新のWebAssembly仕様に対応しているかの確認が必要です。WebAssemblyモジュールのデバッグツールやプロファイリングツールも準備しましょう。
使用するAPIアクセスやリソース利用ができるかも事前検証が必要です。
WebAssemblyの今後と将来性
WebAssemblyはWebアプリケーション開発向けの技術として着実に進化を遂げています。
エコシステムの拡大が進みツールチェーンやライブラリの充実、より多くのプログラミング言語のサポートが期待されています。特に、RustとWebAssemblyの連携は、高速で安全なWebアプリケーション開発の新たな標準となると示唆する声もあがっています。
また、WebAssembly System Interface(WASI)の登場により、WebAssemblyのサーバーサイドやデスクトップアプリケーションでの活用が広がっています。さらに、Component ModelとWebAssembly Interface Type(WIT)が導入され、異なる言語で書かれたWebAssemblyモジュール間の相互運用性が向上しています。
今後、WebAssemblyはゲーム開発や仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、機械学習など、新しいアプリケーション分野での活用も進んでいくでしょう。
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まとめ
WebAssemblyは高速な処理と多言語対応を実現し、Webアプリケーションの可能性を大きく広げる技術です。FigmaやGoogle Earth、Unityなどの実践例が示すように、パフォーマンスと機能性の向上を実現しています。
導入には適切なプロジェクト選定と環境整備が必要であるものの、将来性は高くWeb開発の新たな標準となる可能性を秘めています。本記事を参考に、高度で効率的なWebアプリケーションをもたらすWebAssemblyを理解しておきましょう。
ライター:にのまえ はじめ
・プロフィール
大手精密部品メーカーで社内SE・PGを経験。その後、国内のSIerに転職し生産管理システムの開発・導入・保守・運用を担当。現在は自らIT企業を立ち上げ、顧客企業のDX化やIT化による業務改善の支援を行っている。並行して企業サイトやWebメディアでライターとしても活動中。趣味は筋トレ・プロレス観戦。
Website:https://writer.yui-road.com/
